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「表示が遅いユーザーを救うな」収益増のためのサイト高速化の新常識
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弊社ではサイトスピードと収益の関係を研究し、「サイトを高速化すると結局、いくら儲かるのか?」 の予測モデルを考案している。
今回その予測モデルを改良して、ユーザーの行動をさらに明らかにしたところ意外な教訓が明らかになった。それが、
「サイト高速化で収益を上げるなら、遅い体験を救うより、すでに早い体験をさらに爆速にせよ」
である。
以下のグラフを見ていただきたい。これは実際の通販サイトにおいてサイトスピードに行動を左右されうるユーザー群の 平均LCPと注文成約率(以下CVRとする)の関係 を示したものだ。

平均LCPが約 1.19 秒までのユーザーのCVRは 13.22% にも及ぶが、平均LCPが悪化するにつれてCVRは急速に低下し、約 3 秒を超えると 0.35% 以下に落ち込む。
もっと衝撃的なのは次の事実だ。

全注文の57%は平均LCP 1.19 秒までの高速体験ができたユーザーによって占められ、90% は 2.3秒 までの準高速体験ができたユーザーによって支えられている。
通販サイトとは、
「魅力に気づいたユーザーのうち、たまたま快適な体験ができた一部だけが注文に到達する接客システム」
なのである。
なぜこのような分析結果が得られたか順を追って解説しよう。サイトスピードと収益に関する理解の解像度が格段に高まることを約束する。
サイトスピードと収益を実際に計測する
弊社ではサイトスピードと注文成約の有無だけに特化したアクセス解析サービスを提供している。
このSpeed is Moneyでは、ユーザーが実際にWebページを体験したスピード指標(RUM)を可能な限り計測し、そのユーザーが注文完了まで到達したかと合わせて観測できる。

これを用い、実際の通販サイトで約1ヶ月間計測をした。この記事で紹介するのは、その約29万セッションのデータに基づくケーススタディである。
今回はLCPに着目
サイトスピードにはさまざまな指標があるが、今回はCore Web Vitalsでお馴染みの LCP (Largest Contentful Paint) をサイトスピードを代表する指標とする。
INFO
LCPは、ビューにおける最大要素が表示されるまでの時間である。典型的な例はファーストビューのメインビジュアルで、画像が無い場合は見出しテキストが判定の対象となる。
ユーザーの体験スピードはバラバラ
はじめに理解をいただきたいのが、ユーザーの体験しているサイトスピード(今回はLCP)は私たちが思っている以上にバラバラである事実だ。
サイト提供者側も、サイトを見るときはひとりのユーザーにすぎない。そうすると「なんとなくこのくらいのスピードで表示されるものだ」という固定観念を持ってしまう。
しかし実際のデータを見ると、ユーザーの体験スピードには大きな幅がある。以下はユーザーの平均LCPとその割合を示したグラフだ。

平均1.08〜1.44秒で体験できているユーザーが最も多いが、平均LCPが0.36秒未満の人もいれば、5秒以上という人もいる。
一番右のグラフが飛び上がっているのは、これより右にさらにロングテールが伸びている分を紙幅の関係で巻き上げたものだ。それだけ遅い人はとことん遅い体験をしている。
INFO
正確には単位はセッションで、ひとりのユーザーでも注文成約に到達すると新たなセッションが始まる。ただリピーターの割合は非常に小さいので、この記事では想像しやすいようユーザーとセッションを同一視する。
このばらつきはサイト側の事情もあるものの、ネットワーク経路やユーザーの端末性能の違いといった要因の方が大きい。ユーザーがサイトを訪問する動機はさまざまだが、サイトの表示が早いかどうかは「運次第」ということになる。
ばらつきを逆手にとって行動を観察する
これはサイト提供者にとってはやるせないところだ。いくら高速化に尽力したところでインターネットの世界にも摩擦があり、一部のユーザーには遅い体験を強いてしまう。
それでも努力は無駄ではない。早いサイトと遅いサイトには歴然とした差があるからだ。
サイトスピードに影響を受けないユーザーとは?
ちょっと立ち止まってユーザーの立場で思考実験してみると、実は「多少のスピードの変化はCVRに影響を及ぼさないユーザー」もいる。
それがサイトスピードが早くても離脱したユーザーと、遅くても注文を成約したユーザーだ。
早くても離脱した「ひやかし層」
まずはサイトでの体験スピードが良好だったのに関わらず離脱してしまったユーザーだが、商品に興味を持てなかったか、あるいは他に不満があったと推測できる。
INFO
正確には離脱というより、注文成約に達していないセッションだが、離脱したユーザーと同義とする。
少なくとも離脱の理由はサイトが遅いからではないので、多少サイトが早くなったところで、購買欲が無駄に高まるとは考えにくい。結局は離脱してしまっただろう。
そのようなユーザーを 「ひやかし層」 と呼ぶことにする。今回のケースではひやかし層は全体の60%にも及ぶ。
遅くても注文を成約した「ロイヤル層」
ひやかし層とは逆にサイトの体験スピードは遅かったのに、注文までたどり着いたユーザーもいる。
どうしても買いたい商品があったか、今日注文しないといけない理由があったのだろう。多少サイトが遅くなろうと、強い動機で注文してくれると思われる。
そのような「ロイヤル層」もいるにはいるが、全体のわずか0.02%である。
LCPの良い・悪いはどう判断するか
ここでLCPの良し悪しについて言及しておきたい。GoogleはLCP 2.5秒までを良い、4秒からを悪いと規定している。今回も「最大LCPが2.5秒未満でも離脱したこと」をひやかし層の条件としている。
そもそもの話だが、LCPも実は本質的なサイトスピードではない。というのは、サイトスピードはユーザーの「主観的な待てない度合い」であって、物体の速度のような客観性はないからだ。
同じLCP 2.5秒を早いと感じる人もいれば遅いと感じる人もいる。加えて決まった何秒かを境に態度が変わるものでもない。反応はおそらくグラデーションのように現れる。
これは大事な観点であるが、主観では計算が進まないので便宜的に LCPはサイトスピードを代表し、2.5秒までは我慢でき、4秒からは我慢できない という仮定で話を進める。
サイトスピード次第で変わるかも?「きまぐれ層」
サイトスピードの影響を受けない(と思われる)「ひやかし層」と「ロイヤル層」を除いた残りのユーザーが、サイトスピード次第で行動が変容しうる「きまぐれ層」だ。
ひやかし層60%、ロイヤル層0.02%であったので、きまぐれ層には約40%が該当する。

このきまぐれ層について深く分析してみよう。
きまぐれ層の注文成約はサイトスピード次第
ここで登場するのが冒頭でも示した平均LCPと注文成約率のグラフだ。これはきまぐれ層だけに注目した関係性を表していた。
- 「きまぐれ層」のユーザーを平均LCPの早い順に並べる
- 平均LCPの早い方からユーザーをほぼ10等分にグループ分けする → グレーの変形ヒストグラム
- グループごとのCVRを計算する → オレンジ色の線グラフ

順位で等分しているので、平均LCPの範囲の広さにばらつきがある。
平均LCPを一定間隔でグループ分けするのがわかりやすいが、それをしないのはユーザー数のばらつきが大きく、ユーザー数の少ないグループでは異常値が出やすいからだ。
遅いユーザーを救うな、すでに早いユーザーを爆速にせよ
グラフを見るとわかるように、注文成約につながるのは本当に快適な体験ができたユーザーだけで、平均LCPが3秒を超えるとCVRはほぼ底辺に届く。
したがって平均LCP 5秒の気の毒なユーザーを3秒に改善するより、平均LCP 1.0秒の十分高速なユーザーを0.9秒にする方がCVRが一気に上がる。
ただ速攻でお詫び申し上げるが、センセーショナルな言い方をしたかっただけで、遅い体験を強いられているユーザーへの対策ももちろん大切で否定する気は全くない。
「遅いの解決」と爆速化ではアプローチが異なる
なぜ爆速化を強調するのかと言うと、5秒を3秒に解決するのと、1秒を0.9秒に爆速化するのでは検討する手法が異なるからだ。
例えば画像軽量化は5秒を3秒にする類の手法だが、1秒を0.9秒にするにはタイムラインと格闘し、スタートダッシュのレンダリングを最適化する必要があるだろう。
PageSpeed Insights も、遅いユーザーは何が問題かに主眼を置いており、1秒を0.9秒にできたかを測るにはピントがずれている。
私自身もこれまで遅い体験を減らすことが人道的であり、売上にも貢献すると無邪気に信じていた。このデータを見て、短期的な収益改善のための高速化を見誤っていたと大いに反省したのだった。
売上は快適な体験をしたユーザーで占められている
先ほどのグラフを見るとわずかなLCPの悪化でCVRが急落する様子が目につくが、それは売上専有率におけるスピード格差も表している。
平均LCPの早い順に10等分した第1グループ(平均LCP 0〜約1.19秒)による注文は、なんと全体の57%を占めている。そして第4グループ(平均LCP 〜約2.3秒)までの累計で全体の90%に達する。

つまり注文の成約には高速な体験が条件であり、いくら商品の魅力を伝えようと体験が遅いとクロージングできない。
サイト高速化は短期的に効果を感じることが難しい改善活動だが、統計的に必ず成果はある。ぜひ今まで見えなかった機会損失をその手でつかみ出していただきたい。