サイトスピードを大幅に改善し、その前後でCVR(コンバージョン率)を見たものの、期待したような成果が確認できなかった。サイトスピード改善に取り組んだことのある人なら、一度はこのすっきりしないモヤモヤを感じたことがあるのではないだろうか。
速くなったのだから当然CVRも上がるはず、と期待して前月比を見ても、誤差の範囲にとどまっているか、下手をすると下がっていることさえある。改善は失敗だったのだろうか。それともサイトスピードによる収益改善など幻だったのか?
弊社のサイトスピードに特化したアクセス解析サービス「Speed is Money」で、通販サイト14サイト・2025年6月から2026年5月までの12か月・約2,000万セッションのデータを詳しく調べたところ、サイトスピード改善の成果を計る指標として「機会損失率」がより有効だと分かった。CVRは季節性や突発的な需要で変動しやすい。そこで、サイトスピードのせいで取りこぼした売上を定量化するほうが、ビジネス成果は説明しやすいのだ。
そもそも「速くなった」とは何か
サイトスピード改善の前後で、速くなったかどうかをどう比べればいいのか。単純に平均値で比べればいいのでは、と思うかもしれないが、実はそんなに単純な話ではない。まずはここから整理しておきたい。
先日の「ページスピードは一定ではない? みんなのスピード体験を想像するコツは『対数正規分布』」でも紹介したように、サイトスピードはユーザーによって一律ではない。あるサイトの読み込み時間(OnLoad)を全セッションぶん集めて分布にすると、次のような形を描く。

多くの人は似たようなサイトスピードを体験する山がある一方、遅い人はとことん遅く、右に長いロングテールを描く。これが「対数正規分布」と呼ばれる形で、サイトスピードに限らずネットワークの応答時間全般でよく現れる。
では、この分布のもとで「サイトスピードが速くなる」とはどういうことか。速い人から遅い人まで、分布全体が山ごと左(速い側)へシフトすることを意味する。

改善前(青)に対して改善後(緑)は山ごと左に動く。遅い人の裾も、全体につられて速くなる方向へ引きずられる。
図について
この図は分かりやすさを優先して対数正規分布をややデフォルメしている。本来は分布が速い方へ動くと山の高さ自体も変わるのだが、ここでは山が左側へシフトする点を強調するために、形を簡略化して描いている。
速さを一つの数字で表す「最頻値」
さきほど「単純に平均値でよいとはいかない」と書いたが、対数正規分布の最頻値・中央値・平均値を描くと次のようになる。

このグラフを見ると、平均値はなんとも中途半端な位置にある。山が動いた度合いを比べるなら、最頻値(山の頂上)で比べるのが直感的だろう。
そこで本記事では、ある期間のサイトスピードの代表値に最頻値を用いることとする。つまり山の頂上がどのくらいずれたかで、サイトスピードを比較するわけだ。

補足:すでに速いユーザーほど収益を左右する
平均値より最頻値がよい理由はもうひとつある。それは、遅いユーザーの体験が変わったところで収益への影響は小さいということだ。直感に反するかもしれないが、実は収益の伸びは、すでに速い体験をできているユーザーがさらに爆速になるかどうか、にかかっている。
平均値付近の体験は遅い部類に入り、それが多少速くなってもCVRは上がらず、収益にほとんど影響しない。したがって、速い部類の体験がどうなったかを比較する方が説明しやすい。
サイトスピードの改善による収益への影響を実験
では実際にとある通販サイト(ジュエリー系EC)で、読み込み時間(OnLoad)の最頻値を月次推移で見てみよう。

このサイトでは月によって読み込み時間に比較的大きな変動(0.84〜2.33秒)が見られた。これを「毎月、サイトスピードに関する改修や悪化のイベントがあった」とみなしてみる。つまり、実際に改修があったわけではないが、事実としてサイトスピードの変動はあった。それをサイトスピード改善の実験結果として解釈してみよう(自然実験)。
CVRとの関係性はやや微妙
この最頻値のグラフにCVRを重ねたのが次のグラフだ。

読み込み時間の最頻値は大きいほどサイトが遅く、理論上、CVRは小さくなる。したがって、このふたつの系列は逆の動きをするはずである。
なんとなくそう見える気もするが、ちょっとわかりにくい。そこでCVRの軸の方向を逆にしてみる。CVRも下にあるほど良好、というようにプロットし直してみたのが以下のグラフだ。

こうして方向性を揃えると、両者はある程度、連動しているようにも見える。ただ、逆の方向に動く月や、大きく乖離する月もある。このグラフで「サイトスピードはCVRに影響するんです!」と言われても、そう…かもね、という程度ではないだろうか。相関係数も r = -0.38 で、弱い相関にとどまる。
なぜこのようにすっきりしない動きとなるのか。
サイトスピードによる損失だけを取り出す「機会損失率」
理由は単純で、CVRはサイトスピードよりも月々の需要の変化で大きく動くからだ。セールや新商品、在庫状況、広告によるブースト、季節性。CVRを左右するのはむしろこうした要因で、サイトスピードの影響は調整項目でしかない。
したがって、サイトスピード改善の成果をCVRで証明しようとしても、うまくいかないことが多いのだ。
そこで、CVRに代わる新たな収益性の指標を提案したい。それがサイトスピードによる「機会損失率」だ。本来は購入されるはずだったのに、サイトスピードが悪いせいで離脱してしまった割合を計算してみよう。手順はこうだ。
- 月ごとに、セッションが体験したサイトスピード(
min(ol))が速い順で10グループに等分する - その中で最もCVRの高いグループ(=サイトスピードに不満が小さかったグループ)のCVRを、ポテンシャルCVR(本来の需要)とみなす
- 遅いグループほどポテンシャルからCVRが下がっていくので、その差の面積(サイトスピードによる機会損失)を求める
- ポテンシャルCVRに対するその割合を「機会損失率」とする

サイトスピードの不満がもっとも小さかったグループは、それを理由に離脱したとは最も考えにくい。そこで、そのCVRをサイトが本来期待できたCVR(ポテンシャルCVR)とみなす。この値と現実のCVRとの差が、サイトスピードを理由とした離脱だと推定する考え方である。
この例で言えば、そのポテンシャルCVRは 3.95% だった。しかし、サイトスピードの遅さが原因で 65.2% を取りこぼし、実現できたCVRは 1.37% にとどまっている。
サイトスピードを改善しても、ポテンシャルCVRそのものは原則として変わらない。速くなったからといって、いらないものが欲しくなるわけではないからだ。しかし、これまでサイトスピードを理由に離脱していたユーザーの一部が、購入までの操作をやり遂げてくれるようになる。それによって全体のCVRが底上げされる。これがこのモデルの論理だ。

機会損失率はサイトスピードにぴったり追従
この機会損失率と、サイトスピード(読み込み時間の最頻値)の月次推移を重ねてプロットしたのが次のグラフだ。

CVRのときに比べて、ずっと強く連動しているのが分かる。相関係数も r = 0.83 と、かなり強い相関を示す。
CVRでは月々の需要の変化に邪魔されて、サイトスピードとの関係の説明がいまいち弱かった。だが機会損失率は、サイトスピードの影響をよく説明してくれている。
複数サイトの傾向もみてみる
この調査対象サイト以外の13の通販サイトも含めて、サイトスピードとCVR、サイトスピードと機会損失率の関係を見てみよう。通販サイト14サイト×12か月=168点を、サイトごとの平均で標準化して散布図にした。
まずはCVRだが、あいにくサイトスピードとの相関に方向性は見られない。r = -0.009 と、ほぼ無相関だ。

一方、機会損失率では r = 0.659 と、はっきり右肩上がりの相関がみられる。

このように、「サイトスピードを改善した → だからCVRが上がる」というのは、案外説明が難しい。しかし機会損失率であれば、サイトスピード改善によるビジネス成果をずっと説明しやすい。
仮にCVRが低下しても成果が示せる
たとえば、サイトスピードの大幅な改善を実施した前後の月次データで、CVRがかえって低下してしまったとする。サイトスピード改善は、ビジネスに成果をもたらさなかったのだろうか。
そこで機会損失率に注目する。すると、機会損失率のほうは低下していた。この状況なら「CVRは需要の変化で下がったが、もしサイトスピードを改善していなければ、CVRはもっと低下していた」と説明できる。



このように実務においても、CVRだけでなく機会損失率にも注目することで、「サイトスピードはCVRに関係ない」という誤った判断を避けられる。
機会損失率も万能ではない
これほどCVRより説明力の高い機会損失率だが、残念ながら万能ではない。読み込み時間との連動を見たグラフでも逆の関係が現れる月はあったし、今回挙げたのはあくまで「機会損失率での説明がうまくいったケース」である。
実際、サイトスピードと機会損失率のあいだに明確な関係が見られないサイトもある。

これは、需要の強さといった要因が、ユーザーの待ち時間に対する振る舞いそのものを変えてしまうからだ。ユーザーが「待てる・待てない」の基準も、必ずしも一定ではないということである。
とはいえ、サイトスピード改善の成果をCVRで直接測ることの危うさと、サイトスピードの違いに着目した機会損失率という指標の有効性は、感じてもらえたのではないだろうか。両者を組み合わせて見ることで、「サイトスピードは成果に関係ない」という誤判断を避けられる。
なお、この機会損失率は、弊社の、サイトスピードに特化したアクセス解析サービス「Speed is Money」を導入すれば、実測データから手軽に計測できる。