サイトスピードが遅い通販サイトでは、本来買ってくれるはずだったユーザーが数多く離脱し、注文を取りこぼしてしまう。頭ではわかっていても、機会損失は目に見えない。この記事ではそれを可視化してみよう。
サイトスピードによる機会損失を可視化するには
まず、あるサイトの30日間のユーザー(実際にはセッションだが、リピーターは少ないのでユーザーと置き換える)を、体験の速い順に20等分する。サイトスピードがおよそ似たユーザーの20グループを作る操作だ。
なお、この記事ではサイトスピードの指標として読み込み時間(OnLoad)を用いる。

この20グループのCVR(コンバージョンレートつまり注文成約率)をプロットすると、次のように右肩下がりになる。

グループのサイトスピード体験が悪いほど、CVRがどんどん低下していく様子がわかる。
また、ここではグループを20等分で作っているので、青い領域の面積はそのまま注文数を示している。
このグラフで解釈できるもう一つの指標がポテンシャルCVRだ。最も体験が速いグループのCVRが最も高く、2.0%をマークしている。
もしインターネットが摩擦のない装置で、全員が良好なサイトスピードを体験できたとしたら、このサイトは本来、2.0%のCVRを実現できたはずなのだ。
言い換えると、ポテンシャルCVRは訪れたユーザーに占める見込み客(本来買うつもりのあった人)の割合を意味する。ユーザー数にポテンシャルCVRを掛けた人数が、このサイトの見込み客の数だ。
ところが現実にはユーザーによってサイトスピードにはばらつきが生じてしまい、遅いユーザーは離脱してCVRが低くなる。そうして最後にCVRは0.76%に落ち着く。そのような構造になっている。

このポテンシャルCVRに対し、サイトスピードに応じて低下したCVRとの間に生じた差が、サイトスピードによる機会損失である。この損失がポテンシャル全体に占める割合が「機会損失率」であり、見込み客のうち何%を取りこぼしたかを表す。

このように表現することで、そのサイトがスピードによってどのくらい離脱を招き、機会損失を生んでいるか可視化できる。
ユーザーごとのサイトスピードについて
ここでユーザーごとのサイトスピードとは、それぞれのユーザーのOnLoadの最小値によって代表している。平均値や中央値ではなく最小値を使う理由は「サイトスピードと収益性の定量的な関係 - 最小LCPによる新モデル」で詳しく解説した。
したがって、20グループの分け方はより正確には、「サイトスピード体験において背負わされたハンディキャップの大きい順にグループ化したものの逆順」である。
サイトスピードで重要なのは「爆速率」
この機会損失率をサイト間で比較していくが、その前にサイト自体のスピードをどう表現するか考える。
シンプルに平均値でよいかというと、収益性と比較する上ではもっとよい表現がある。それが爆速率だ。
速いか遅いかではなく「速いか爆速か」
次のグラフをみていただきたい。これは実際の14サイトにおけるサイトスピードとCVRの関係を示したものだ。それぞれのサイトのポテンシャルCVRを1に標準化している。

線が多くてみづらいが、いずれのサイトもCVRが高いのはスピードが速い領域だけで、急速に低下している様子がわかるだろう。そして、2.5秒以降はほぼ横ばいになっている。
Googleは良好な読み込み時間の基準として2.5秒を挙げているが、現実のユーザーにとって2.5秒はすでに遅いのだ。
もう少し全体の傾向を見てみよう。これらの線を点にプロットし直し、中央値のトレンドを示したのが以下のグラフだ。

読み込み時間が約0.9秒で、ポテンシャルCVRに対して半減する。そして、1.5秒でおよそ2割にまで低下している。
このように収益性を左右するサイトスピードは「速いか、遅いか」の問題ではない。「速いか、爆速であるか」が問題なのだ。
爆速率 = 読み込み時間 ≦ 1秒の割合
そこでこの記事では、サイトスピードを比較するための便宜的な指標として「爆速率」を設定したい。これは全ユーザーのうち、CVRのほぼ半減する読み込み時間1秒以下だったユーザーの割合である。
平均値の問題は、「すでにユーザーにとって遅すぎる水準」である点だ。平均値を出すとおよそ2.5秒から4.5秒の範囲になるが、3秒なのか5秒なのかを比較しても、その時点でユーザーは離脱してしまっている。
爆速率の正確な定義
繰り返しになるが、実際にはユーザーの読み込み時間は最小値によって代表しており、爆速率は読み込み時間のハンディキャップが1秒以上にならないユーザーの割合、というのが正確なところである。
爆速率の代わりとしては、上位10%点の読み込み時間(p10)などを用いてもよいだろう。
サイトごとの機会損失
さて、このようにスピードによる「機会損失率」と、収益性を左右する体験のよさの指標として「爆速率」を設定できた。14サイトについてこれらをグラフに表すと、明確な関係が現れる。

爆速率が低いサイトほど機会損失率が大きく、逆に爆速率が高いサイトは機会損失が小さくなる。Site NやSite Hは機会損失率が60%ほどだが、いくつかのサイトは機会損失率が90%にも達している。
いくつか具体例を見てみよう。
よいケース Site H 爆速率33% 機会損失率62%
爆速率が高く機会損失の少ない例としてSite Hを見てみよう。

Site Hは実際、シンプルで高速な部類に入る。しかし62%のユーザーは遅いと感じて離脱してしまっている。
これはインターネットの構造上、仕方ない現象だ。サイト自体が高速でもユーザーまでのネットワーク経路や、閲覧する端末の性能は千差万別であり、大きなばらつきが生じてしまう。そして不運にも遅い体験を強いられたユーザーは離脱してしまう。
悪いケース Site J 爆速率9% 機会損失率89%
逆にサイトスピードが遅く機会損失の大きい例としてSite Jを見てみよう。

このサイトでは本来買うつもりのあったユーザーのうち、たまたま高速な体験のできた約10%がかろうじて注文に辿り着き、残りの約90%は脱落してしまっている。
もし仮にこのサイトがSite Hの水準にまでサイトスピードを改善し、機会損失率を62%まで回復できると、売り上げは約3.5倍になる見込みがある。
中間的なケース Site I 爆速率16% 機会損失率80%
中間的なケースとしてSite Iのグラフがこちらだ。

やはりCVRは爆速ゾーンから急速に低下をはじめ、1秒ほどで半減する。1.5秒付近ではもう横ばいになってしまう。
遅いSite JがSite Hを目指して着実に改善を進めると、このような分布を示す段階に達する場合もあるだろう。
不条理だが改善を続けるしかない
このようにサイトスピードは機会損失率に直結している。遅いサイトは見込み客の90%以上を失いながら運営されている。これはまるで錆びついた自転車を必死に漕ぎ進めるような苦しみである。
一方で、速いサイトであっても運営者と無関係の要因で60%を失ってしまう。これは不条理としか言いようがない。それでも60%以上にならないように維持する他ない。
見方を変えると、遅いサイトにはスピード改善によって売り上げを伸ばせる伸び代が必ずある。今回、可視化された機会損失を見ることで希望に変えてもらえると幸いである。
機会損失を測定するには
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この記事のデータも、Speed is Moneyを利用中の通販サイトから14サイトに協力をいただいた。
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